
シンガポールの就労ビザの申請手順は?種類や取得の注意点などを解説
シンガポールの就労ビザを取得するにあたり、どのような点に注意すべきなのか、申請の流れが煩雑ではないかなどの不安をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
本記事では、Employment Pass(以下、「EP」)やS Passなどシンガポールの就労ビザについて詳しく解説します。ご自身の状況に合った最適な就労ビザを取得でき、自信をもって、シンガポールでのキャリアの第一歩を踏み出せるようにぜひ参考にしてみてください。
シンガポールの就労ビザの種類
はじめに、シンガポールで就労を目指す際に選択肢となる主要なビザの種類を紹介します。主な種類は、以下の通りです。
- Employment Pass(EP)
- S Pass
- Dependant’s Pass(DP)
- Training Employment Pass(TEP)
- Work Holiday Pass(under Work Holiday Programme)
- Personalised Employment Pass(PEP)
- Entre Pass
- Tech. Pass
- Overseas Networks & Expertise Pass(通称ONE Pass)
それぞれの特徴を見ていきましょう。
Employment Pass(EP)
Employment Pass(EP)は、管理職や専門職、経営層などの外国人材を対象とする就労ビザです。主に、日本人就労者の中では、駐在員や現地採用のプロフェッショナル層の人材が取得する就労ビザとなっています。後述するS Passと比べると、取得難易度は比較的高いビザです。
取得条件として年齢に応じて期待される最低月額固定給与額をクリアすることやポイント制評価フレームワーク「COMPASS」で合計40点を獲得することなどが挙げられます。
S Pass
S Passは、中級レベルのスキルを持つ技術者や一般スタッフ向けの就労ビザです。
EPよりも比較的取得条件が緩やかで、最低給与額を満たしていれば申請が可能です。ただし、ローカル従業員○人に対して1枠という形で業種ごとにS Passの採用枠が決められており、一定数のローカル従業員数が必要になるため、企業によっては採用枠がないことも少なくありません。
Dependant’ Pass(DP)帯同家族向けビザ
Dependant’s Pass(DP)は、シンガポールで働くEPまたはS Pass保持者が、法律上の配偶者や21歳未満の未婚の子どもを家族として帯同するための滞在用ビザです。DPは家族帯同ビザであるため、DPだけでは就労はできません。家族でのシンガポール移住を計画している場合は、DPを活用するとよいでしょう。
DPを取得する条件としては、就労ビザ保持者(EPもしくはS Pass)の月額固定給が6,000Sドル以上であることが挙げられます。
就労ビザ保持者自身の親も一緒に移住する場合は、月額12,000Sドル以上の給与であれば、長期滞在パス(LTVP)を申請できる可能性があります。
Training Employment Pass(TEP)
Training Employment Pass(TEP)は、シンガポールで専門的な実務トレーニングを受けることを目的とした、最長3か月の短期滞在研修生向けのビザです。
シンガポール政府が認定している海外の教育機関の学生インターンシップ受け入れ時や同一グループ企業内で研修の一環として海外からの研修生を当地で受け入れる際に利用されています。企業から研修生を派遣する場合は、研修生の月額固定給与は3,000Sドル以上である必要があります。あくまで、研修期間に限定されたパスであることを、理解しておく必要があります。
Work Holiday Pass(under Work Holiday Programme)
Work Holiday Pass(under Work Holiday Programme)は、ワーキングホリデー協定を結んだ特定の国の若者を対象とした、短期の就労体験と観光を組み合わせたプログラムです。
日本も対象国のひとつで、主に18歳から25歳までの若者が申請できます。国際的な文化交流を促進し、各国の若者にシンガポールでの生活や文化を体験してもらう機会を提供することが目的です。有効期間は最長6か月で、その間、短期的な就労が許可されます。
Personalised Employment Pass(PEP)
Personalised Employment Pass(PEP)は、月額固定給与が22,500Sドル以上の高所得の専門職人材を対象とした、シンガポール就労ビザです。
一般的なEPとは異なり、個人にビザが紐づくため、特定の雇用主に縛られず、転職をする際にも新たにビザを申請する必要がない点が特徴です。
基本的に3年間有効で、更新はできません。また、ビザの有効期間中、6か月を超えて無職の状態でいることは許可されず、自身で事業を立ち上げることもできない点に注意が必要です。
Entre Pass
Entre Passは、シンガポールでベンチャービジネスを立ち上げることを目指す、外国人起業家のための就労ビザです。
Entre Passの取得条件は個人の給与額ではなく、これから立ち上げる事業の革新性や経済への貢献度が重視されます。
例えば、政府系ベンチャーキャピタルなどから一定額投資を受けていること、政府認定のインキュベーターなどから支援を受けていること、事業に関連する知的財産(特許など)を保有していることです。あるいは豊富な起業実績があることなどが挙げられ、具体的な事業性の証明が求められます。
Tech.Pass
Tech.Passは、IT業界で実績を持つリーダーや創業者、技術専門家を誘致するための就労ビザです。シンガポールの経済開発庁(EDB)が主導しており、2021年の1月に新たに導入されました。
Tech.Passの保持者は起業や複数企業での就労や役員就任、投資、大学での講義、コンサルティングなど、広範囲での活動が許可されます。
申請条件は、直近の月額固定給が22,500Sドル以上であること、かつ以下のいずれかに該当する組織で通算5年以上幹部リーダー職としての経験を有していることが求められます。
- 評価額が5億米ドル以上または3,000万米ドル以上の資金調達実績のあるテック企業
- 運用資産が5億米ドル以上のテック系ベンチャーキャピタル
Overseas Networks & Expertise Pass(通称ONE Pass)
Overseas Networks & Expertise Pass(通称ONE Pass)はビジネスや芸術、スポーツ、学術研究などの、あらゆる分野のトップタレントを対象とした就労ビザです。
世界の超一流と認められる人材を積極的に誘致するため、既存のビザの枠を大幅に超える優遇措置が設けられています。有効期間は5年間と長く、更新も可能です。
申請要件として、月額固定給30,000Sドル以上の給与を得ていること、または各分野で国際的に認められる卓越した実績を持つことが求められます。
日本人が主に取得するシンガポールの就労ビザ・EPとS Passの違い
シンガポールの就労ビザの種類がわかったところで、日本人が主に取得する就労ビザのEPとS Passについて、さらに深掘りしていきます。
EPは1社で採用できる人数に制限がない
EPは企業が雇用できる人数に上限が設定されていない点が、S Passとの違いです。
EPの申請が承認されるかどうかは、個人の給与や学歴、雇用主の企業の属性を点数化するCOMPASSという評価制度の結果が重要となっています。
このCOMPASS制度は、シンガポール政府が国内経済へより大きく貢献できる高度専門人材を、より透明性の高い明確な基準で選考するために導入されました。 EPの取得を目指す個人は、採用枠を心配する必要はなく、採用側は候補者の条件でCOMPASSの点数をどうクリアさせるかという部分に焦点を当てた、採用戦略を立てられます。
S Passは雇用主側に採用枠があることが申請の条件
S Passは、企業が雇用できる人数に「Quota(クォータ)」と呼ばれる、国が定めた厳格な採用上限枠が設けられています。この採用枠が採用企業になければ、候補者がどれほどその業務に適していても、S Passを申請できません。
これには、国内の中間層スキルを持つ現地の人たちの雇用機会を守るという目的があります。
外国人労働者の数を、業種ごとに全従業員に対する一定の割合に制限することで、国内労働市場のバランスを維持しているのです。
S Passでの就労を目指す場合、企業にS Passの採用枠があるかどうかを、応募前に確認しておくと安心です。
シンガポールの就労ビザ(EP)取得にはCOMPASSのスコアなどの条件を満たす必要がある
シンガポールの就労ビザ(EP)の取得には、評価制度COMPASSのスコア合計40点以上を獲得しなければなりません。
評価項目として、申請者の給与(C1)や学歴(C2)といった個人の属性と、雇用主となる企業の国籍多様性(C3)やローカル雇用支援(C4)といった企業側の属性があります。
企業側はMOM(Ministry of Manpower)のセルフアセスメントツール(SAT)でEP申請前にスコアを確認することが可能です。
また、COMPASSのみならず、EP申請に必要な最低月額固定給与が定められているステージ1のEP qualifying salaryを含め、両方の基準を満たす必要があります。
シンガポールの就労ビザを取得するメリット
シンガポールの就労ビザの概要について理解できたところで、ここからはシンガポールにおける就労ビザを取得するメリットを紹介します。
主なメリットは、下記の4つです。
- アジアでのキャリアの選択肢が増える
- 家族帯同が可能となる
- 帯同者も就業が可能である
- 英語圏での実務を通じて国際経験を積める
それぞれ詳しく見ていきましょう。
アジアでのキャリアの選択肢が増える
シンガポールで就労ビザを取得して実務経験を積むことで、アジアで活躍するための土台ができます。
シンガポールは、多くのグローバル企業がアジアの統括拠点として進出しています。そのため、東南アジア各国やインド、オセアニアなどの業務に携わる機会が豊富です。
将来的にアジア全域で通用するビジネスパーソンを目指す方にとって、シンガポールでの就労経験は、その後のキャリアの選択肢を飛躍的に広げるでしょう。
家族帯同が可能となる
シンガポールの就労ビザは、家族での海外移住を目指している方にもおすすめです。所得に応じて、家族帯同ビザDependant’s Pass(DP)の取得ができます。
家族帯同の対象者は、法律上の配偶者と21歳未満の未婚の子どもです。これにより、お子様を現地の学校に通わせるなど、具体的な生活設計が可能になります。
一定の条件を満たせば、自身の親を帯同させる長期滞在パスの申請も可能です。
帯同者も就業が可能である
DPは家族帯同ビザであるため、DPだけでは就労はできません。DP保持者がシンガポールで就労するためには、以下のパターンがあります。
- DP保持者自身がEPもしくはS Passを取得する(DPをキャンセルする)
- DP保持者がDPを保持したままWork Permit(WP)を取得する
- DP保持者がDPを保持したままLOCを取得する(ビジネスオーナーの場合のみ)
最近はEP、S Pass取得にあたって年々取得が難しくなってきていることもあり、2のWPを取得して働くケースがもっとも一般的になっています。
英語圏での実務を通じて国際経験を積める
シンガポールで働く場合、基本的には英語を日常的に使用します。そのため、語学力はもちろんのこと、国際的なビジネスコミュニケーション能力を実践的に養えるのがメリットです。
日々の業務連絡から会議での議論、顧客との交渉まで、あらゆるビジネスシーンが英語です。異文化を背景に持つ人々と、協力する力が自然に身につきます。
シンガポールの就労ビザを取得する際の注意点
シンガポールの就労ビザ取得には、メリットがある一方で、気をつけたい注意点も存在します。ここでは、事前に理解しておくべき注意点や制度上の制約についてまとめました。
- 就労ビザ取得の審査基準が厳しく設定されている
- SPやWPの場合、採用枠に上限が設けられている
- EP、S PassやWPは企業に紐づくため、転職する場合は新規申請が必要となる
事前に押さえておくことで、安心してシンガポールで就労できるでしょう。
就労ビザ取得の審査基準が厳しく設定されている
シンガポールの就労ビザの中でも、とくに管理職や専門職、経営層向けのEPの審査基準は厳格化しています。単に高い給与を提示するだけでは、就労ビザの取得が困難になっているのが実情です。
シンガポール政府が国内の労働市場の変化に対応するため、外国人の人材に求めるレベルを高くしているという背景があります。
申請者の専門性がシンガポール経済へどう貢献するのかを、より客観的で多角的な指標を用いて判断する方針です。また、学歴については、第三者機関による証明書の提出が必須となるなど、提出書類の要件も厳しくなっています。
SPやWPの場合、採用枠に上限が設けられている
S PassやWork Permit(WP)は、企業が雇用できる外国人の数にクオータと呼ばれる上限が設けられています。これは、国内の労働者の雇用機会を守るために設けられているものです。
外国人労働者の比率が特定の業種で高くならないよう、政府が企業全体の従業員数に対する比率をコントロールしています。応募先の企業に採用枠があるかどうか、事前に確認することがミスマッチを防ぐうえで有効です。
EP、S PassやWPは企業に紐づくため、転職する場合は新規申請が必要となる
EP、S PassおよびWPは、現在の雇用主との雇用契約に紐づけられています。もしも転職して職場を変更する際には、新しい雇用主を通じて、新たに就労ビザを取得する必要があります。
雇用主が変わると、就労ビザの審査の前提条件がすべてリセットされるため、注意しましょう。例えば、A社でクリアできたCOMPASSの点数がB社では不足していると判断され、就労ビザが取得できないリスクもあります。
転職を検討する際は、新しい職場で就労ビザを再取得できる見込みがあるかを慎重に見極めるべきです。
シンガポールの就労ビザの申請手順
実際にシンガポールの就労ビザ(EP・S Pass)を取得するにあたり、申請からカードを受け取るまでの一連の流れを6つのステップに分けて解説します。手続きの流れを理解し、スムーズに進められるようにしましょう。
- 申請書類を作成・提出する
- In-Principle Approval Letter(IPA)またはRejection Letterを受け取る
- 健康診断を受ける(MOMより指示がある場合)
- Notification Letterを発行する
- 指紋や顔写真を登録する
- 就労ビザカードを受け取る
手続きの流れを理解し、スムーズに進められるようにしましょう。
1.申請書類を作成・提出する
シンガポール政府は企業に対して公平な雇用機会の提供を徹底しているため、基本的にはビザ申請前(外国人雇用前)に、ローカル候補者に公平に雇用の機会を与えたことの証明として、ローカル人材向けの求人広告を最低14日間求人掲載サイトに掲載し、採用活動することが求められています。
その後、外国人を雇用する場合には、申請書類を作成・提出する流れになります。申請手続きは、オンラインで実施します。
2.In-Principle Approval Letter(IPA)またはRejection Letterを受け取る
オンラインでの申請後、審査が完了すると結果が通知されます。
承認された場合は、仮承認通知書であるIn-Principle Approval Letter(IPA)が発行されます。これは、正式なビザカードが発行されるまでの、シンガポールへの入国と滞在を許可する重要な書類です。
主にビザの種類や給与額、IPAの有効期限が記載されており、この期間内にシンガポールに入国しビザを発行する必要があります。
万が一、承認されなかった場合はRejection Letterが発行されます。ただし、通知から3か月以内であれば、新たな補足情報を添えて、再審査の申し立てが可能です。
3.健康診断を受ける(MOMより指示がある場合)
シンガポールへの入国後、健康診断が必要となる場合があります。
基本的には、発行されたIPAに「medical examination is required」といった文言がある場合のみ、シンガポール国内のクリニックで指定の項目にもとづいて健康診断を実施します。
4.Notification Letterを発行する
シンガポールに入国し、必要な健康診断が完了した後は、雇用主側がオンラインで就労ビザの発行手続きを実施します。
手続きが完了すると、就労ビザが正式に有効化されたことを証明する「Notification Letter」が発行されます。仮承認の状態から、正式なビザ保持者としてのステータスへ移行させるための最終的な行政手続きです。
5.指紋や顔写真を登録する
Notification Letterの発行後、レターに記載された期限内に、ビザ保持者本人がMOMのサービスセンター(EPSC)へ出向き、指紋と顔写真の登録(生体認証登録)を行う必要があります。
就労ビザの不正利用を防止することが目的で、生体情報が、物理的な就労ビザカードに記録されます。
手続き自体は比較的短時間で終わりますが、登録期限は厳守する必要があるため、ビザ発行が完了したらすぐにEPSCの予約を入れましょう。
6.就労ビザカードを受け取る
生体認証登録が完了してから5営業日以内に、就労ビザカードが指定された住所(通常は会社のオフィス)へ郵送されます。
カードを受け取ったら、記載されている氏名やFIN(外国人識別番号)に誤りがないか確認しましょう。さらにデジタルワークパスSGWorkPassのアプリをダウンロードし、ビザの有効期限などもあわせて確認をする必要があります。
就労ビザは、銀行口座の開設や賃貸契約など、あらゆる生活の場面で提示が求められます。就労中は、紛失しないように大切に管理しましょう。
まとめ
シンガポールの就労ビザには、EPやS Passなどさまざまな種類があります。それぞれの特徴を理解しておくことで、就労ビザをスムーズに取得し、自信をもってシンガポールでのキャリアをスタートできます。シンガポールの求人をお探しの方は、下記リンクから求人情報をご覧ください。
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※当地ではビザに関する条件や制度が頻繁に更新されるため、本情報は2025年11月25日時点の内容にもとづいています。最新の情報については、必ず MOM(Ministry of Manpower)の公式ウェブサイトをご確認ください。
【ディスクリプション】
シンガポールの就労ビザには、EPやS Passなど、さまざまな種類があります。ご自身の目的に合わせて、適切なビザを選ぶことが大切であるため、取得条件も確認しておきましょう。